FITとFIPはどう違う?制度の基本をゼロから整理する
太陽光発電で「売電収入を得る」ためには、国が定めた買取制度に申請する必要があります。現在、日本には大きく分けて**FIT(固定価格買取制度)とFIP(フィード・イン・プレミアム制度)**の2種類があります。どちらがお得か、どちらを選ぶべきかを判断するには、まずこの2つの根本的な違いを正確に理解することが第一歩です。
FIT(固定価格買取制度)とは
FIT(Feed-in Tariff)は、2012年7月に再生可能エネルギー特別措置法によって始まった制度です。太陽光発電をはじめとする再生可能エネルギーの普及を目的とし、電力会社があらかじめ決められた固定価格で、一定期間にわたって発電した電力を買い取ることを義務付けています。
住宅用(10kW未満)に適用される方式は余剰電力買取です。これは家庭内で消費しきれなかった余剰電力のみを売電する仕組みで、自家消費を優先しつつ余った分を売るかたちになります。買取期間は10年間で、申請時に決まった価格がその期間中ずっと固定されます。
一方、産業用・事業用(10kW以上)の場合は全量買取となり、発電した電力をすべて売電することができます。買取期間は20年間と長く設定されており、より長期的な事業計画が立てやすい仕組みです。
FITの最大のメリットは収益の予測可能性にあります。固定価格・固定期間という条件が明確なため、設置前に売電収入をほぼ正確にシミュレーションでき、初期費用の回収計画が立てやすいのです。
FIP(フィード・イン・プレミアム)とは
FIP(Feed-in Premium)は2022年4月に導入されたFITの後継オプションです。FITが「国が決めた固定価格」で買い取るのに対し、FIPは電力市場の取引価格(基準価格)にプレミアム(上乗せ額)を加算した価格で売電します。
仕組みを簡単に言えば、「電力市場の相場が高ければ売電収入が増え、低ければ収入も下がる」市場連動型の制度です。電力価格が上昇している局面では、FITよりも高い収益が見込める可能性がある一方、市場価格が下落した場面では収入も減少します。そのため、電力市場の動向を常に把握し、リスクヘッジの戦略を持つことが前提となる制度といえます。
住宅用の方が最初に知っておくべき重要な点:FIPは原則として50kW以上の規模が対象です。一般家庭の住宅用太陽光発電(10kW未満)はFIPの対象外となっており、住宅に設置する場合は自動的にFITが適用されます。「FITかFIPかを自分で選択できる」のは、ある程度の規模を持つ事業用太陽光発電を検討している方に限られます。
2025〜2026年度のFIT買取価格と「初期投資支援スキーム」
住宅用FIT買取価格12年間の推移
FIT制度が開始された2012年度当初、住宅用の買取価格は42円/kWhという高水準でした。この価格は太陽光パネルの普及を促進するためのインセンティブとして設定されましたが、その後、パネルの価格低下や普及拡大に合わせて段階的に引き下げられてきました。
資源エネルギー庁の調達価格等算定委員会が発表してきた主な推移を整理します(詳細)。
| 年度 | 買取価格(円/kWh) |
|---|---|
| 2012年度 | 42 |
| 2015年度 | 33 |
| 2018年度 | 26 |
| 2021年度 | 19 |
| 2022年度 | 17 |
| 2023年度 | 16 |
| 2024年度 | 16 |
| 2025年度前半(〜2025年9月) | 15 |
| 2025年度後半〜(2025年10月〜) | 24円→8.3円(2段階) |
| 2026年度 | 同スキーム継続 |
出典: 資源エネルギー庁 調達価格等算定委員会
約13年間で買取価格は42円から大幅に下落しましたが、2025年10月を境に制度の構造そのものが変わりました。
2025年10月から始まった「初期投資支援スキーム」とは
2025年10月より、住宅用・屋根設置型太陽光発電を対象とした初期投資支援スキームが導入されました。これは従来の「1つの固定価格で10年間買い取り続ける」方式から、前半と後半で価格が大きく異なる2段階制に切り替わった、FIT制度史上最大の変更点の一つです。
新スキームの買取価格の内訳は以下のとおりです:
- 1〜4年目(前半4年間): 24円/kWh
- 5〜10年目(後半6年間): 8.3円/kWh
買取期間自体は従来と同じ合計10年間ですが、前半4年間を高い価格に設定することで「設置後の早期段階で初期費用を回収しやすくする」設計になっています。資源エネルギー庁は、初期費用負担を軽減することで太陽光の普及をさらに加速させることを目的として本スキームを導入しました。2026年度もこのスキームが継続されており、現在FITに申請する住宅用は2段階価格が適用されます。
試算イメージ(あくまで概算):
4kWシステムを設置し、年間発電量を4,000kWh、余剰売電量をそのうち年間2,000kWh(自家消費率50%)と仮定した場合:
- 前半4年間の年間売電収入の目安: 2,000kWh × 24円 = 約48,000円/年
- 後半6年間の年間売電収入の目安: 2,000kWh × 8.3円 = 約16,600円/年
旧方式(16円固定)での10年間合計と比較すると、前半の高単価期間があることで初期投資の回収が早まる計算になります。ただし、実際の余剰電力量・自家消費率・発電量は設置条件(屋根の向き・傾き・地域の日照量)によって大きく異なります。
正確なシミュレーションは、複数の施工業者から見積りを取り、それぞれの試算を比較することが確実です。
FITとFIP、住宅用はどちらを選ぶべきか?規模別の判断基準
住宅用(10kW未満)はFIT一択—選択の余地はない
繰り返しになりますが、一般家庭の住宅用太陽光発電(10kW未満)はFIPの対象外です。したがって住宅にパネルを設置する場合、現行制度では自動的にFITが適用され、「FITかFIPかを自分で選ぶ」という場面は発生しません。
「FITとFIPどちらがお得か?」という問いに対して住宅オーナーが知るべき現実の答えは、**「住宅規模ではFIT以外の選択肢はなく、問題はFITをいつ・どのように活用するか」**という点に移ります。
住宅用で現実的に検討すべきポイントは次のとおりです:
- いつ設置するか(タイミング): 初期投資支援スキームが始まった現在、前半4年間を24円/kWhで売電できるメリットを活用できる
- 自家消費をどれだけ増やせるか: 売電単価が下がっていくなか、自家消費による電気代削減の比重が大きくなっている
- 補助金をどう組み合わせるか: 国の支援制度(みらいエコ住宅2026事業など)や自治体補助と組み合わせて実質費用を下げる
- 卒FIT後をどう設計するか: 10年後の売電単価は7〜9円/kWh程度まで下がるため、蓄電池導入などの出口戦略が重要
事業用(50kW以上)ならFIPも視野に
農地・工場の屋根・遊休地などを活用した事業規模(原則50kW以上)の太陽光発電であれば、FIPも実際の選択肢になります。
| 比較項目 | FIT | FIP |
|---|---|---|
| 対象規模 | 住宅用〜事業用 | 原則50kW以上 |
| 収益の安定性 | 高い(固定価格) | 低い(市場連動) |
| 収益の上限 | 固定(市場高騰の恩恵なし) | 市場次第で上振れあり |
| リスク管理 | 不要 | 必要(電力市場の監視) |
| 運営の複雑さ | シンプル | 複雑(電力販売業者との連携等) |
| 住宅への適用 | 対象 | 対象外 |
事業規模でFIPを選ぶ場合は、電力市場の変動リスクを管理できる体制があるか、電力販売業者(アグリゲーター)との契約ができるかが前提条件になります。安定収益を優先するならFIT、市場参加による収益最大化を狙うならFIPという大まかな棲み分けです。
FIT卒業後(卒FIT)の選択肢と長期戦略
10年後に訪れる「卒FIT」問題
FIT期間(10年)が終了すると、固定価格での買取契約は自動的に終了します。電力会社への売電を継続するには、改めて各電力会社に申し込む手続きが必要です(自動継続ではありません)。
卒FIT後に大手電力会社が設定している買取価格の目安は、7〜9円/kWh程度とされており、FIT期間中の価格と比べると大幅に下がります。FIT期間中に売電収入を主な収益源としていた場合、卒FIT後は戦略の見直しが必要になります。
卒FIT後の3つの選択肢
① 電力会社に売電を継続する
最も手続きが簡単な方法です。各電力会社の卒FIT後買取プランに申し込むだけで売電を続けられます。手間はかかりませんが、買取価格が7〜9円/kWh程度と低水準になるため、経済的な恩恵は限定的です。
② 蓄電池を導入して自家消費を拡大する
昼間に太陽光で発電した電力を蓄電池に貯め、夜間に使う方式に切り替えることで、電力会社からの購入量を大幅に削減できます。買取価格が低くなる卒FIT後こそ、この選択肢の価値が高まります。
家庭用蓄電池の費用目安は、小容量(5〜7kWh)で工事費込み約80〜120万円、中容量(8〜10kWh)で約120〜200万円程度。蓄電池の寿命は一般的に10〜15年程度とされています。導入費用が高い一方で、電気代削減と停電対策という2つのメリットがあります。
③ V2H(Vehicle to Home)でEVを「走る蓄電池」として活用する
EV(電気自動車)を保有している、または購入を検討しているご家庭には、V2H機器を介してEVのバッテリー(多くは40〜80kWh)を家庭の電力に使う選択肢もあります。V2H機器の費用は工事費込みで約50〜100万円程度ですが、一般的な家庭用蓄電池よりも大容量の電力を活用できる点が特徴です。太陽光発電と組み合わせることで、日中に発電した電力をEVに貯め、夜間に自宅で使うという自給自足型の電力利用が実現します。
再エネ賦課金の上昇と、太陽光発電の「もう一つの価値」
4.18円/kWhまで上昇した2026年度の賦課金
FIT制度を支える費用は、「再生可能エネルギー発電促進賦課金(再エネ賦課金)」として全国の電力利用者が電気料金に上乗せして負担しています。太陽光発電を設置していない家庭も含め、すべての電力消費者に課せられます。
資源エネルギー庁の発表によると、再エネ賦課金単価と標準家庭の月額負担は次のとおり推移しています(詳細)。
| 年度 | 賦課金単価(円/kWh) | 月額負担目安(月400kWh) | 年間負担目安 |
|---|---|---|---|
| 2023年度 | 1.40 | 約560円 | 約6,720円 |
| 2024年度 | 3.49 | 約1,396円 | 約16,752円 |
| 2025年度 | 3.98 | 約1,592円 | 約19,104円 |
| 2026年度 | 4.18 | 約1,672円 | 約20,064円 |
出典: 資源エネルギー庁 再生可能エネルギー発電促進賦課金(2026年度:令和8年3月19日発表)
2026年度の賦課金単価は4.18円/kWhに上昇しており、標準家庭では年間約20,064円の負担となっています。太陽光発電を設置した世帯は自家消費分だけ電力会社からの購入量が減るため、再エネ賦課金の実質的な負担も軽減できます。電気代が高止まりし、賦課金も上昇傾向にある現在、売電収入だけでなく自家消費による節電効果を組み合わせた経済的価値が高まっています。
東京エリアでも進む太陽光の普及
東京電力パワーグリッドのでんき予報(エリア需給実績)によると、東京エリアにおける太陽光発電の発電比率は2026年5月に**14.34%**に達しました。春(4〜5月)に発電比率が高く、冬に低くなる季節変動はありますが、2026年7月でも9.25%と、電力供給における太陽光の存在感は着実に高まっています。
出典: 東京電力パワーグリッド でんき予報(詳細)
太陽光発電は一家庭の節電・節約手段であるだけでなく、社会全体のエネルギー構成を変えていく手段でもあります。
まとめ:住宅用はFIT一択、制度を正しく理解して導入判断を
FITとFIPの違い、そして2025〜2026年度の制度変更のポイントをまとめます。
- 住宅用(10kW未満)はFIT一択。FIPは原則50kW以上が対象のため、一般家庭では選択の余地がない
- 住宅用FIT買取価格は2025年10月から**初期投資支援スキーム(1〜4年目24円、5〜10年目8.3円の2段階)**に移行。2026年度も継続
- FIT期間終了後(卒FIT)には売電単価が7〜9円/kWh程度まで下がる。蓄電池・V2H活用などの出口戦略を事前に考えておくことが重要
- 再エネ賦課金は2026年度に4.18円/kWhに上昇。自家消費による電気代削減効果が以前より大きくなっている
- 事業用(50kW以上)ではFITの安定性とFIPの市場連動型収益を比較し、事業戦略に合わせて選択する
太陽光発電の導入費用や売電収入の試算は、設置環境・屋根の向き・地域の日照量によって大きく変わります。自分の家にどれだけの効果があるかを知るには、複数の施工会社から見積りを取り、条件ごとのシミュレーションを比較することが最も確実な判断方法です。
※本記事の情報は2026年時点のデータに基づきます。最新の費用・補助金・FIT売電価格は各省庁・各事業者の公式サイトでご確認ください。
データ出典
※本記事のデータは政府統計・公表資料に基づきます。最新情報は各省庁・公式サイトでご確認ください。